top of page
11.JPG

Program Note

2022. 5. 20 グランツたけた〈廉太郎ホール〉

今回のプログラムは“1893年”に書かれたドヴォルザークの作品96「アメリカ」とドビュッシーの作品10を中心に、19世紀末に生まれた作品をお届けいたします。

クラシック音楽にとっての19世紀は、まさに“ロマン派”の時代と言えます。ベートーヴェンやシューベルトが発端となり、ベルリオーズ、メンデルスゾーン、シューマン、ショパン、リストといった作曲家によって大きな発展を遂げます。中でも後世に多大な影響を与えたのがワーグナーでした。彼の音楽に心酔し、熱烈なワグネリアンとなったのがフーゴ・ヴォルフ(1860-1903)です。“一挺のヴァイオリンを片手にイタリアを目指して放浪する青年の様子を描いた”とされる「イタリアン・セレナーデ」(1887年)にも、執拗なまでの半音階や、それに伴う感情が溢れ出るような表現など、ワーグナーからの影響を感じさせます。しかしながら、ドイツ歌曲最大の作曲家とも称されるヴォルフの紡ぐ旋律には、シューベルトからの流れでもある叙情性が常にあり、その融合こそが彼独特の世界観であると言えます。

誇り高き芸術の国イタリアでは、ワーグナーと同じ1813年生まれのヴェルディが、リーダーとして音楽界を牽引していました。その次世代として登場したのが、ジョコモ・プッチーニ(1858-1924)です。

弦楽四重奏のための「菊」(1890年)は彼が一連のオペラの傑作を生み出すより前の時期に、パトロンであったアオスタ公アメデオ1世が若くして世を去ったことへの追悼として書かれた作品です。冒頭、第1ヴァイオリンによるメロディは半音階から始まりますが、ヴォルフのそれとは違い、心の奥底へ沈み込んで行くような表現が魅力的です。プッチーニは特に和声法において、フランス象徴主義音楽からの影響を受けていたとされます。
その象徴主義音楽の先駆者がクロード・ドビュッシー(1862-1918)です。

ドビュッシーは若かりし頃、ワーグナー作品上演で名高いバイロイト音楽祭に二度も(借金をしてまで!)通うほどのワグネリアンでした。しかし彼は、バロック、古典派時代を経て洗練されていった機能和声を極限まで広げたワーグナーの作品を踏襲する事に未来はないと判断し、独自の音楽を模索します。
彼が着目したのは、バロック以前の16世紀まで発展した“教会旋法”や、東洋の民族音楽などで使用される“ペンタトニック”(五音音階)でした。そこに彼ならではの和声感が加わり、従来の調性音楽とは異なる響きを獲得します。弦楽四重奏曲 作品10(1893年)はこの和声法を身につけたばかりの若きドビュッシーの意欲作であり、当時としては大変斬新な音楽でした。

クラシック音楽界の“1893年”とは。
重要な作曲家の一人、チャイコフスキーが「悲愴」交響曲を作曲・初演後すぐに亡くなってしまいます。今考えると彼の死は“ロマン派”の終焉を予感させると言わざるを得ません。

チャイコフスキーと一歳違いのアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)もまた、若き日はワーグナーの影響の濃い作品を書いていたひとりです。彼にとっての作曲家としての分岐点はブラームスとの出会いでした。バロックや古典派からの影響による“新古典的ロマン主義”とも言われる厳格な書法を学びます。
また新天地アメリカでの教育活動の中で知遇を得た黒人音楽からのインスピレーションや、日本民謡などにも用いられているペンタトニックの使用など、どこか懐かしい我々にも身近な響きと旋律がドヴォルザーク最大の魅力として花開きました。有名な「新世界」交響曲と同じ年に書かれた、弦楽四重奏曲 第12番 作品96「アメリカ」(1893年)はまさに、アメリカ時代の最も充実した時期の作品です。

今回は1887年~1893年の僅か6年の間に書かれた作品によるプログラムです。
この約20年後に人類は第一次世界大戦に突入していきますが、音楽もまた、調性やリズムなどの秩序を失っていきます。21世紀、今再び戦争の時代になるかもしれない恐怖と隣り合わせの私たちにとっても、19世紀末は“古き良き時代”なのかもしれません。

ウェールズ弦楽四重奏団

Program

ヴォルフ:イタリアン・セレナード

Wolf: Italian Serenade in G major WW XV / 3

プッチーニ:弦楽四重奏のための《菊》

Puccini: Crisantemi 

ドビュッシー:弦楽四重奏曲 Op.10

Debussy : String Quartet in g minor, Op.10

ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲 第12番「アメリカ」op.96

Dvořák: String Quartet Op.96 “American”

[出演]

ウェールズ弦楽四重奏団

 Violin 崎谷直人

 Violin 三原久遠

 Viola 横溝耕一

 Cello 富岡廉太郎

bottom of page